自閉症・発達障害の方への歯科治療支援・視覚支援のための絵カードを製作いたしました。
以下の文章は、日本臨床心理士資格認定協会認定の臨床心理士の資格取得済、および心理職初の国家資格である公認心理師資格取得済の先生に書いて頂きました。
はじめに~自閉症児の歯磨き・歯科治療について~
自閉症児はコミュニケーション能力や対人関係、新しい物事への適応の能力に遅れや偏りがみられます。
さらにこだわりや感覚過敏などの特性もあるため、様々な日常生活場面で困難に直面することが多いです。
日常生活において、関わりが難しい分野と考えられるのは歯磨きではないでしょうか。
なぜ歯磨きが難しいと考えられるのか。
それは極端な偏食に加え、感覚過敏による歯磨きの不協力行動が考えられます。
さらに保護者の負担感を増加させるとともに、親子に与える心理的影響も懸念され、歯磨きを断念せざるを得なくなってしまうと考えます。
同様に、歯科治療も困難といえるでしょう。
そこで今回は、自閉症児は言葉によるコミュニケーションよりも視覚情報によって情報を得やすいという考え方から、絵カードを使用した支援をお伝えしたいと思います。
この記事を読むことで、自閉症児の歯磨きの苦手さを少しでも軽減出来ると考えます。
絵カードファイル(PDF・PNG)ダウンロード
(1)自閉症とは?自閉症の特徴からくる、歯磨き・歯科治療の問題
まず、この章では自閉症とはどういう特徴をもった障害であるかをお話します。
A)感覚性の過敏さ
自閉症の特徴のひとつに「感覚過敏」があります。
感覚過敏とは外部からの刺激が激しい苦痛を伴って、不快に感じられる状態のことを指します。
例えば聴覚過敏では大きな音が嫌(救急車のサイレン、皿を落とす音)、触覚過敏で肌触りの悪い服は着ることができない(綿100%の服を好む)、視覚過敏で明るい所は嫌がる、などが挙げられます。
感覚過敏からくる問題としては、歯磨きによる刺激を嫌がることが考えられます。
治療器具で触れられることを嫌がる、歯ブラシが歯茎に接触することを嫌がる…などです。
しかし歯磨きを嫌がる子に対しては何を嫌がっているのかを考える必要があります。
B)こだわりや興味の狭さ
興味・対象が限定的で、好きなことに没頭したり、好きなものばかり食べる、ということが挙げられます。
例えば恐竜のことが好きで難しい恐竜の名前を知っており、恐竜博士、と呼ばれたりします。
他には、例えばフライドポテトばかり執拗に求める、野菜は絶対に口にしない、などが挙げられ歯科保健習慣の確立にも困難をきたします。
C)曖昧なものへの苦手さ
これは、コミュニケーションの苦手さともいえますが、いわゆる言外の意味や曖昧な表現、指示が苦手で伝わりにくいです。
例えばお母さんに「お風呂みてきて」と言われたとします。
一般的には“お風呂のお湯がたまったら止めてきて”ということですが、自閉症児は「見てくる」だけです。
これは、自分の体験した範囲でしか言葉の理解をしていないからである、と考えられます。
そのため、歯磨きでは例えば「しっかり磨いてね」と言われても本人にとっては、どれくらい磨けばしっかりなのかがわかりません。
(2)絵カードの有効性
自閉症児は前章『自閉症とは?自閉症の特徴からくる、歯磨き・歯科治療の問題』でもお伝えした通り曖昧なものへの対処が困難です。
さらに、話を聞いて対処するよりも目でみたものへの対処が得意とされています(聴覚的対処よりも視覚的対処が優位)。
そのため、歯磨きや歯科治療を行うにあたって、指示や治療を言葉だけでなく視覚情報によって伝えると、より効果的に伝わります。
さらに、予定がわからないと混乱するので見通しをもたせるといいでしょう。
視覚的な指示とは具体的に図やイラスト、絵などのことを指し、これらを使うと理解が促されます。
また、自閉症児は一度に多くのことを言われると混乱するため、一つずつの指示や説明だとより伝わりやすいです。
つまり、聴覚的な同時作業が苦手であり、長い説明や指示は話の焦点をぼやかすことになってしまいます。
そこで絵カードを使うことの有効性としては指示や説明を端的に伝えることができる点、さらにカードによってはイラストで興味を惹くことができる点が挙げられます。
例えば「10秒うがいをする」という絵カードを見せるだけで子どもには伝わります。
(3)自閉症児の歯磨き・歯科治療における、絵カードの実際
では実際に日常生活においての歯磨きや歯科治療において、絵カードを使ってどのように進めていくのが有効かを考えていこうと思います。
まず、日常生活における歯磨きについて。
前提として歯磨きは毎日実施することなので、歯磨きのやり方をパターン化して決まりきった磨き方で進めると自閉症児にとってはやりやすいかもしれません。
歯磨きするように言っても、子どもによってはほんの数秒磨いて終わってしまう子もいます。
また、時間的な見通しを立たない状況が苦手な子もいます。
そのような子どもにもきちんと磨いてもらうためにも絵カードは重要です。
絵と字をつけて、1個1個の作業を見せていきます。
例えば
① 歯磨き粉をつける
② 10秒ぶくぶくします
③ 左下を10秒ずつ磨きます
④ 左上を10秒ずつ
⑤ 右下を10秒ずつ
⑥ 右上を10秒ずつ
⑦ 上の前歯を10秒
⑧ 下の前歯を10秒
⑨ 10秒ぶくぶくします
⑩ 歯ブラシを洗います
などのように絵と言葉で具体的に伝えると、より歯磨きしやすいです。
次に歯科治療について。
治療当日は、まずホワイトボードにその日の予定をひらがなでおおまかに箇条書きにし、診療過程を段階に分けます。
そして治療中には、1つの段階が終わったら次の段階のカードを見せる(「ぶくぶくします」「くすりをつけます」など)、という内容を細分化する方法が有効だと考えます。
さらに〇(マル)の絵カードを使用することも有効です。
これは褒める、という行為を視覚的に伝えるための援助として活用できます。
〇の絵カードをもらえることで、子どもに自信と達成感を味わってもらい、うまくいけば、また来たい!と感じてもらえるのではないでしょうか。
最後に、例えば子どもが治療に飽きた時、嫌がった時にはタイマーなどを使用してどの程度の時間を我慢すればいいのかを視覚的にわかるようにすることも効果的です。
終わりに
今回は自閉症児に対する歯磨きおよび歯科治療において有効な手段として絵カードを紹介しました。
今回紹介した絵カードを使用することでより、自閉症の特徴であるこだわり、曖昧なものへの苦手さに対処でき、本人はもちろん親や治療者も無理なく、嫌な思いをせずにかかわることができるのではないでしょうか。
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